「だーもうっ、何すりゃいいのかわかんねー」

ファンシーショップのアクセサリー棚を前に唸る男子中学生を、
店員および通行人は人肌程度の生暖かい目で見守っている。
大凡、彼女へのプレゼントに迷っているのだろうと予想できる黒髪の少年の葛藤は、
初々しさと健気さとが相まり見ていて非常に微笑ましい図になっていた。

「ちゅーか高くね? なんでたかだかリボンにこんな金かかんの?
 こんなもんただの布切れ一枚じゃね?」
「金がどうこう言ってないで買ってやれよ、お前小せえ奴だな」
「倉間に言われたくない」
「身長の話じゃねえよ!?」

倉間、と呼ばれた銀髪の少年は、つらっとした態度を崩さないまま
いくつかのリボンを無作為に選び取って片割れの少年に突き付ける。

「この辺でいいだろ、適当に買ってやれって」
「なんで倉間が選んでんの!? しかも似合いそうだから余計腹立つ!!」
「お前がいつまでもうだうだしてるからだろ!?」

黒髪はブラックコーヒーのように不透明な暗い瞳をじとっと疎ましげに細めて、
長い前髪に片目を隠した片割れの少年に引きつった笑みを返す。

「だったらさー、倉間も天馬になんか買ってやるべきじゃね?
 実際選ぶ側になったら俺の気分だって解るって絶対」
「は?」

銀髪の少年は面食らったような顔をして、発言者を見上げている。

(正直金使いたくないとか何買ってやればいいかわかんないとか、一回思い知ればいい)

先の一言にはそんな思惑があった。しかし、現実は思わぬ方向に作用する。

「天馬に、な……」
「え」

相変わらず無愛想な表情のままとことこと歩いていく彼を慌てて追いかけると、
並べられた商品は先程までのヘアアクセサリー売り場とは違い、
リボンやシュシュよりも相当値が張るきらきら光る金属が主体になった。
困惑する相方を余所に、何かを見つけたらしい彼は、
迷いもしないで銀の環を一つ拾い上げる。

(え、迷わず行った? ちゅーか指輪? 指輪行く? そもそもそれ滅茶苦茶高くね?
 ちゃんと値札見てんの? あれ、スパイク買えるぐらいの値段してたけど?)

思うことはいろいろあったが、言葉になったのは「指輪?」の一言だけだった。

「こういうくらいの方が喜ぶんじゃねえか? あいつ髪飾りとか付けねえし」
「あー……そう、ですね」

思わず敬語になってしまう程度には動揺していた。デレしかない彼はいっそ奇妙だった。
淡々とした表情のまま会計に向かう彼の背を見つめていると、
先程の発言が脳内をリフレインする。

『金がどうこう言ってないで買ってやれよ、お前小せえ奴だな』

「倉間が豪快すぎるだけじゃね……」という呟きは、誰の耳にも届かない。



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