「さて……この身の程知らずをどうしてやろうか」

見下ろす視線の冷たさに恐怖しながら、
俺は何故あんなにも浅はかな行動に出てしまったのかを強く強く後悔していた。

そう、それは薬草が無駄に大量に生えている森に出向いた時のことだ。
そこでは何の偶然か、あのすっとぼけた剣士がのほほんと間抜け面で採集作業に勤しんでいた。
普段なら無視するところなんだが、時期が悪かった。
もうじき行われる武闘大会が脳裏によぎり、要らない魔が差した。

――ここであいつが負傷すれば。

命までは奪わない。右手か左足、どちらかに傷を付けれればいい。
俺は何も考えず、背後から剣士に切りかかった。
剣士の側にいた魔法使いが、俺に向けて氷の呪いをかけていた事にも気付かずに。


そうして俺はあっさり捕らわれの身となった。
四肢を氷で固められた挙げ句地中に突き立てられ、
大の字で拘束されてしまった俺に出来る事と言えば、
翠と蒼、2つの刺すような視線から目を逸らす事だけだった。

「そもそもさ。私が一人で薬草なんて採集出来る訳ないって思わないのかな」

剣士は相変わらず気の抜ける表情で首を傾げながら、抱えた籠を地に下ろす。
やれやれと言わんばかりの溜め息を吐きながら、魔法使いが籠の中身を一瞥した。

「私、ストレイボウがいないと薬草と毒草の見分けもつかないんだよ?」
「そうだな……俺が見てたと言うのにそれでも混ざっているぐらいだものな、このポンコツ」
「ぽ、ポンコツは言い過ぎじゃない? もっとこう、何か……」
「ポンコツで悪いなら不良品だ、このスットコ大馬鹿野郎が」

剣士は言い返す事も出来ずに、うう……と押し黙ってしまった。
ざまあ見ろと思わなくもないが、それでも俺が浅はかだったのは確かだ。
こいつらはまるで双子か何かのように、ぴたりとついて離れないのだ。

「まぁ、こいつの方が馬鹿だがな」

そう言い放つ魔法使いの目は、完全に侮蔑の色を含んでいた。

「ストレイボウ。この人、どうするの?」
「どうって……騎士隊に引っ張っていくに決まってるだろうが」
「うん……未遂だし、突き出すのは可哀想だと思うんだけどな」

剣士の言葉に、魔法使いが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
その顔色に、思わず俺も剣士も腰を引いてしまった。

「またそうやって優等生気取りか」
「ストレイボウの方が優等生だったじゃない」
「そう意味じゃない! ああもう、だから、つまり」

レイピアの切っ先のように鋭い眼差しが、俺に降り注ぐ。

「私刑なら構わないんだろ?」
「それくらいはしないと更正できないんじゃないかって思うな」

見るからに冷たく容赦のない魔法使いと、曇りのない目で真剣に言い放つ剣士となら、
果たしてどちらが怖いのだろう……とぼんやり考えた。
とりあえず、剣士の方がまだ話が通じそうな気がした。

「こ、心入れ替えて真面目にやるからさ、今回は勘弁してくれよ。な?」

剣士を見上げながら、縋るようにそう泣きつく。
奴は何とも言えないような表情をしながら、深緑色の目が困惑気味に見つめ返してきた。

「もう、こんな事しない?」
「しないしないしない!」
「そっか……」

剣士はやんわりと花のような笑みを浮かべ、こう続けた。

「って言ってるけど、ストレイボウ」

ああ、まあそうなるだろうな。
魔法使いはそれはもう極上の笑顔で、立てた親指で首を掻ききるジェスチャーをする。

「だって。ごめんね?」

こんな時まで笑顔じゃなくていい。
固そうなブーツの靴底が迫ってくるのを、俺はどこか他人事のように考えていた。



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