結局のところ、オレはまだ子供でしかなかったのだ。
偉そうな口をきいて、解ったように振る舞って、でもプライドだけは一丁前に高くって。
まだまだ青臭いガキだっていうのに、意味もなく背伸びなんてしていたのだろう。

「……謝りませんからね」

触れ合った背中から伝わる声はまだまだ棘が残っていた。
顔を見なくても心を読まなくても、まだムキになってるのが良く解る声色。
この喧嘩なんて既にどうでも良くなっている俺と比べて、
こいつの方はまだまだ子供なんだって事だろうか。
いや、オレがあまりに薄情だって線もあるが。

「知らねーよ」
「なッ」
「お前なんか知るか」

すくっと立ち上がり、無視して皆の方へと向かう。
後ろからぎゃあぎゃあという叫びが聞こえなくもないけど、オレの知ったことじゃない。

「――貴方は僕が嫌いなのかもしれないけど、僕らは仲間なんですよ!?」

……知ったことじゃ、

「少しくらいは妥協して、力を合わせないと」

……オレは、

「今は僕らしか居ないんですから、お互いに我慢して――」
「嫌いなのはお前の方だろ?」

振り返ったら、こいつはぽかんとした表情でオレを見ていた。
見開かれた目が、図星を突かれたことをありありと示している。

「オレはお前の事なんか何とも思っちゃいない。せいぜい口うるさいガキってくらいだな。
 オレがお前を嫌いなんじゃない。お前がオレを嫌いなんだよ」
「そんな事……」
「――『面倒な人だ。どうして解ってくれないんだろう』?
 決まってるだろ、もともと合わない上にお前が嫌だって思ってるから。
 ついでにオレがお前をなんとも思ってないから」

マイナスを掛け合わせれば何でもマイナスになる。ゼロなら全てがゼロになる。
プラスに働かない関係は、どうやった所で良い物に化けはしないのだ。

「貴方は――!」
「良いのか? また言い合いになったって聞けば、愛しの『高原さん』が怒っちまうぜ?」
「!」

引き合いにアイツの名前を出せば、面白いように心が騒ぎ始める。
――嫌われたくない。でもここで逃げたくない。なんで高原さんの名前を出すんだ?
ぐちゃぐちゃに歪んでいく声を聞いているのは楽しかった。
大人びた口うるさいガキが、年相応に悩んでいるからだ。

「可愛いもんだな。高原の名前が出ただけでそれか」
「貴方、は」
「そんなにアイツに嫌われたくない? 猫被ってまで一緒に居たい?」
「……貴方は、何様なんですか!」

迫ってくる拳を軽々と避けて、オレはこいつと大きく距離を取る。
攻撃を避けるのは軽いもんだ。
何せオレの読心能力さえあれば、攻撃のスピード、手順、狙い全てが把握出来る。
あとはどれにも現れなかった場所へ身を逸らすだけ。


「ほらほら、大人しくしてなって。高原に嫌われちまうぜ?」

込み上げてくる笑みを抑えもせずにそう吐き捨てて、オレはそこから離れた。

「――高原さんに嫌われたくないのは、アンタの方じゃないか!」

背中側からくる言葉には、耳を塞いだまま。



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