幼馴染みは、本当に自分の立場を理解しているのだろうか、と思った。
きらきら輝くエメラルドの目で無邪気に見つめられると、
何だか自分がえらく汚れてしまった気分になって適当な穴を掘って埋まりたくなる。
どうしてこの女は、組み伏せられて中途半端に剥かれて尚子供のように笑っているのだろう。
「……お前、今の状況解ってるのか」
恐る恐る聞くと、オルステッドは花が咲いたような笑顔を浮かべた。
咲いている花々は頭の中を表現しているかのように脳天気かつ電波なお花畑だが。
「解ってるよ? 悪いこと、するんでしょ」
「そういう言い方をしないでくれ。本当に犯罪に手を染める気分になる」
「え?」
恐らく黄色い花ばかり咲いているだろう愉快な脳味噌をした幼馴染みを見下ろしながら、
俺は思わず本日何度目なのか既に解らなくなった溜め息をついた。
「……怖いんだ」
オルステッドの頬に手を伸ばし、触れる。
こいつは確かにここに存在して、目で見て触れられる。
これは現実だ。今から起こることは全て都合のいい夢物語や妄想なんかじゃない。
俺が俺自身の意志でもって行動するのだ。
「俺が、俺の望むように、お前に触れる」
俺の気分が少しは通じたのだろうか。
先ほどまで穏やかだった翡翠の瞳に、さっと青みが差す。冷静な輝きへと形を変える。
「……うん」
「女にしちまうんだ。俺は、今から、お前を」
「うん」
オルステッドは何も言わない。途切れ途切れな俺の言葉を拾い集めては頷くだけだ。
動揺しかしていない俺とは裏腹に、いたって平然としているように見えた。
こいつは男の俺なんかよりもずっと肝が据わっている。
いっそ生まれる性を間違えているんじゃないかと思えるほどに。
「怖い」
それなのに、手のひらで感じた温かさも、肌の柔らかさも、見上げてくる瞳も、
全てがオルステッドが女でしかないことを俺に突き付けてくる。
怖かった。
俺は、オルステッドが自分の自由に出来る事実がひたすらに怖かった。
何が一番怖いか。それは、本当に浅ましくって恐ろしい俺の欲望だ。
「楽しみなんだ。お前を俺の手でぐちゃぐちゃに出来るのが、楽しみで仕方ない。
今の俺がお前に何をするのか、自分で責任が持てない」
組み敷いたままのオルステッドが、苦笑しながら首を傾げる。
「ええと、首締めたり刺したりしない?」
「俺の性癖はそこまで歪んでない……と思う」
「じゃあ生きて帰れるんだよね。私」
へらりと笑う。何も考えていないんだろう笑顔に、少し胸の荷が降りた。
すっと毒が抜けたような気分になる。無邪気に輝く翡翠の目も怖くない。
「……えへへ」
満面の笑みを浮かべながら、オルステッドが言う。
「初めてだよね、こんな風に君が私に弱味見せるなんてさ。
そういうこと考えたら、私たち恋人になったんだなーって思うな」
さて、どうしようか、本当に容赦できる気がしなくなってきた。