※ライメイ設定



「はいっ、これでログインできるようになったよ」

フェイ・ルーンは慣れた素振りで携帯電話を操作すると、それを白竜の手元に返した。
ディスプレイに踊る文字と画像を見やりながら、
どこか覚束ない手つきで白竜はひとつずつ動作を確かめている。
究極を自負してはいるものの、電子機器の扱いにはあまり長けていないのかもしれない。
難しい顔をしたまま、白竜は小さく頷いた。

「ありがとう。これがイナリンクか」
「ああ。僕らはこの機能を使って時空越しのやりとりをしているんだ」

起動しているアプリケーションは、イナリンクと言うものだ。
本来は雷門中サッカー部員がそれぞれと連絡を取り合うために使っているのだが、
時空最強イレブンを集めるために仲間になった者たちへも連絡がとれるようにするべく、
今は雷門中外の者にも一時的にアカウントを持たせていた。
白竜もまた、今この時のためにだけイナリンクを自分の携帯に登録している一人だ。

「今のところは雑談ばっかりになってるけど、緊急連絡もここからしてるから、
 いざという時に見逃す……なんてことはないようにしてね」
「俺を誰だと思っている。任せておけ」
「頼りにしてるよ」

ぱたりと携帯を閉じ、白竜は手荷物の中にそれを放り込む。
フェイはにこやかに笑いながら、さらに注意事項を続けた。

「それから、ここからが一番大事なんだけど――」

フェイは笑顔だ。笑顔だったが、無機質だ。感情がそれほど感じられない。
白竜が違和感を感じた瞬間に、爆弾がオーバースローで放り込まれる。

「あまり天馬とばかりレスしあってると神童くんにアカウント停止されるから気をつけてね」

白竜は携帯を放り込んだ再生のまま、しばらく硬直していた。
それから、ぎぎぎぎぎといまいち油の差さっていない人形がするような動きで顔を上げる。

「……は?」
「それだけじゃない。倉間くんと剣城はリアルファイトを仕掛けてくるよ。
 僕とか信助みたいに接近してもノーカン扱いになれるまではおすすめしないな」
「お前たちは何と戦っているんだ?」

表情を強ばらせ、やっとのことで振り絞った声でそう訪ねてくる白竜に、
フェイは無機質に光を反射するエナメルの表面ような目しか返せないでいる。
口元だけは弓を描いて微笑んでいたが、瞳に感情がない。

「結構大変なんだよ、どこからがアウトなのか三人それぞれ違うからラインが解らないんだ」
「緊急連絡網だよな? これは緊急連絡網なんだよな?」
「当り前じゃないか」

早口にまくしたてる白竜の声を、フェイは何でもない風に軽く流している。

「大丈夫。すぐ慣れるよ」

フェイが浮かべる疲れきった笑顔の意味を、白竜はまだ知らないでいる。
管理コミュニケーションの実態を知るまでに時間はそれほどかからないことも、
意外と心が狭かったライバルの脇腹目掛けて天地雷鳴を浴びせる未来が待っていることも、
水面下の争いに素で気付いていない天馬本人に苛立ってドラゴンブラスターをぶちかました結果、
ミキシアームド状態の神童に首を絞められる羽目になることも。



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