「クリスマスパーティーをやろうと思うんだ」

部活動も終わり、黙々と着替えをしている最中に神童がそんなことを言い出した。

「パーティーですか?」
「ああ、引退してしまった先輩方も呼ぼうかと思っている。もちろん、やるならの話だが」
「いいですねぇそれ!」

信助と輝が待ちきれないとばかりに飛びついていく一方で、狩屋は怪訝な表情をする。

「毎年やってたんですか?」
「いや、やってない。去年は俺らも一年生だったし、そんなに仲が良かった訳でもないしな」

霧野はひらひら手を振って狩屋の疑問をばっさり切り捨てた。
かつての雷門中サッカー部は内申書のためにとサッカー部を選んだ者と、
神童たちのように鬱屈とした思いを抱えながらフィールドに立つ者とが混雑していたので、
どうしてもその二者間には埋められない差や心の壁があったのだ。

「いいねー、俺は賛成! 神童んちならうまいもん食えそうだしっ」
「現金ですねぇ……確かに、パーティーはいいなって思いますけど」

浜野たちの無邪気な声を聞き流しながらも、狩屋の表情は晴れない。
何事かと霧野がその視線を辿ると、そこにはわかりやすいくらいに動揺している天馬の姿。

「天馬くん、なにそんな面白い顔してんの?」
「あっ、え、いや、何でもない! 何でもないよ! いやー、パーティー楽しみだなーっ」
「はぁ?」

疑念の眼差しを突きつけたままの狩屋に対し、霧野は何となく動揺の理由を悟っていた。
大方、先に何か外しがたい用が入っているか、もしくは希望があったのだろう。
そう考えると、室内に倉間も剣城も居ないのが残念でならない。
同じように動揺していたなら、天馬の用事が何なのかを悟ることができただろう。

(いや、案外神童が「みんなで」って言ったから動揺した可能性もあるのか)

ともあれ、どれだけ唸ったところで天馬本人を問い詰めない限り詳細は解らない。
霧野はむぅと唇を尖らせながら、天馬の背後の糸の行方から思考を戻す。
どうせクリスマスの夜に、全て明らかになるのだから。


そして日は流れて、あっさりとクリスマスの日が訪れる。
いつもと比べ明らかに沈んだ様子の天馬は、荷物を片手に木枯らし荘を後にした。



【ここで分岐する】

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