※世界中の迷宮2のパロです



神童らが合い見えるは、極彩色の巨大な翼を持つ異形の怪物。
この第四階層『桜ノ立橋』の王――名を、ハルピュイアと云う。
その大きな翼が巻き起こす嵐に苦しみながらも、神童は指先で空を切り、印を描く。

「蒼白の稲妻よ、その力を以て彼の者を消し去れ! 『雷撃』の術式、起動!」

神童を中心に、目も眩むような閃光が走る。
青白いその光は周囲の空気を圧縮し、やがて極太の光の奔流となってハルピュイアを貫いた。
巨体が怯んだ隙をつくようにして、たん、と地面を蹴り、剣城が前線へ躍り出る。

「とっととくたばりやがれ! 『チェイスショック』!!」

叩き付けるように、構えた剣を勢いに任せて振り下ろす。
それは神童が起動した雷撃を纏ってより強く輝き、そして威力を増す。
怒涛の追撃に魔物の体勢は大きく崩れていくが、剣城の一撃も止めには至らなかった。
羽根を広げ、ハルピュイアの体は再び宙に舞い上がる。

「つ、次にまたあの嵐を起こされたら、俺たちもうおしまいですよ!」

背後から聞こえた涙混じりの叫び声に、剣城がチッと舌を打つ。
本人の意図は別として、止めを差せなかったことを詰られたかのように聞こえたからだ。

「煩い、次で仕留めりゃいいんだろ!? 神童、もう一度だ!」
「ああ」

同じく苦々しげな顔をした神童が再度指先で陣を描こうとした、その刹那。
神童の前に、人影がふたつ重なった。
人影の片方は銃撃手・南沢篤志。もう片方は、弓を操る野伏・松風天馬。

「その必要はねえよ、お二人さん」

やけに自信に満ちた声でそう語る南沢が、銃口を怪物の眉間へ向けて狙いを付ける。
その横で天馬が放った矢は、やがてまっすぐにハルピュイアの羽根を狙って飛んでいった。
その矢はすぐさま爪によって弾かれてしまう。しかし、それこそが二人の狙いだった。

「『道』は作りました! 南沢さん!」
「ああ、上出来だ……っ!」

乾いた銃声が鳴り響く。
――天馬が打ち込んだ矢は、攻撃のためのものではない。真の狙いは、二発目に繋げるため。
矢を弾き返す際、どうしてもハルピュイアは一度体勢を崩す。
その隙をわざと作ることで南沢が狙いを付けるまでの時間を縮め、また、確実に当てる。
天馬を囮にした波状攻撃こそが二人の真の目的だった。

「これで終わりだ、化け物」

『至高の魔弾』とでも呼ぶべき銃弾が、異形の眉間を正確に貫く。
結果は、南沢が言った通りになった。
力の抜けたハルピュイアの体は、そのまま地面に向かってダイブする。
断末魔をあげることすら許さずに、南沢はその怪物の息の根を止めた。

「チェックメイト……だな」
「……なっ」

握り締めていた剣を取り落としかけた剣城を尻目に、天馬はひらりと右手を上げた。

「やりましたよっ、南沢先輩!」
「ああ、ナイスアシスト」

天馬の手のひらに、南沢のそれが重なる。ぱん、と音を立てて、二人はハイタッチを交わす。
それを至近距離で見せつけられた神童の目は、夜の闇よりも深く黒く濁りだしていた。

「速水、回復してくれよ回復」
「俺はハルピュイア剥いでおきます! 回復は大丈夫なんで!」
「は……はい……」

怪物は倒れた。しかし、新たな魔物が今にも動き出しそうなので、速水の震えは止まらない。

「今度この編成にする時は、俺じゃなくて霧野くんを回復役に据えてくれませんか……」
「あー、俺か松風のどっちかを前列から下げられるしな」
「そういう問題じゃないの解って言ってますよね」

殺意をまるで隠そうともせずに鋭い視線を送る剣城や、
混濁した双眸でじっとこちらを見つめる神童には知らん顔をして、
南沢はつらっとした顔で速水の懇願を聞き流す。

「あー、普通の物しか落としてないや……うーん、今度は倉間先輩呼ばないといけないなあ」

頼むから、次はこそはこの修羅場に巻き込まないで欲しい。
速水は今まさに心からそう願っていた。



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