「弾かれちゃいましたね」

翡翠色のオーラを纏った倉間のシュートが遥か上空に打ち上げられたシーンを思い返しながら、
天馬がしゅんとした様子でそんなことを呟いた。
ともすれば嫌味とも取られかねないような言葉だが、そう解釈する者はいない。
寧ろ何故だか一同が深刻そうな顔をして俯くので、一年生の目には困惑の色が浮かんだ。

「あれは弾いて正解なんだ」
「え」
「サイドワインダー、の意味は解るか?」

神童の問いに、天馬はふるふると首を振る。
そうだろうと思っていたので、神童は呆れも感慨も何もなく言葉を続ける。

「サイドワインダーは……アメリカ西部の砂漠に生息している蛇なんだ」
「蛇なのはなんとなく解ります」
「ああ。噛まれると、そこから細胞が壊死して血が止まらなくなる」

一年生の動きが止まる。ついでに、海王学園ディフェンス陣の視線が神童に突き刺さる。

「違う違う神童。そんだけじゃなくて、目眩と吐き気もしたし、噛まれたとこ変色した」

浜野の語り口は過去形だった。顔色も悪く、よくよく見ればかたかた震えている。
最もこのシュートを止めてきたであろう三国に至っては、顔面蒼白で目を逸らしていた。

「……それ、蛇の方の話ですよね? 技とは関係ないですよね?」

先輩方の表情が表情だったが、何かの冗談なのだと信じたい天馬は、恐る恐る倉間に向き直る。
『アメリカ西部の砂漠に生息している蛇』という前提条件と、
浜野がまるで自分が噛まれたことがあるかのような語り口を踏まえると、
天馬の希望がやすやすと打ち砕かれる結果になるのは目に見えているが、
できることならそんな可能性は全くもって信じたくなかった。

「天馬」
「はい」

倉間は黒壇色をした無機質な三白眼をきゅっと細めて、言う。

「アレルギー症状さえ出なけりゃ死なねえから安心しろ」
「その技早く封印してくださいいいい!!」

「だから何だ」程度の気休めを堂々と倉間が語るので、天馬は絶叫する。
遥か彼方では、海王学園守備陣が「素手で触れなくて良かった」と騒ぎ立てていた。

(ダメだ、このひとにボール回しちゃダメだ!!)

もともとは自分が倉間にボールを回したことが起因となったシュート技だ。
同じようにまた動いて、相手チームを正しい意味で病院送りにするのは憚られる。
天馬は青を通り越して紫になりかけている顔色のまま、後半の身の振り方を必死に思案した。



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