「それに、俺たちがやろうとしている革命は、まさにそういうことじゃないのか」

一乃と青山を背にし、神童が笑う。
逃げ出したやつだと倉間が責めた二人。けれど神童は「待っていた」と微笑みかけて、
そして今は「革命」の本質であるとそう部員たちに語りかける。

「どういうことだど」
「もちろん、ホーリーロードで優勝してイシド・シュウジから聖帝の座を奪うことは重要だ。
 けど、俺は思う。本当の革命は――」

整列した部員たちを順に見据え、凛として神童は言う。

「俺たちのサッカーを見て、本当のサッカーのすばらしさを思い出して。
 それを取り戻すために、立ち上がってくれることじゃないかって」

それはまるで救国の英雄がする演説のような語り口だった。
茜の頬が思わずぽうっと色付いて、天馬がきらきらと目を輝かせる。
そしてその天馬の目の輝きは、神童の目にも止まった。
視線が絡まり、微笑み合う。
(あれ雲行きおかしいんじゃないか)と一乃と青山が思った頃には、
神童が天馬の手をとり、恍惚とした眼差しを向けていた。

「俺だってそうだ。初めは本当のサッカーなんてできっこないと思っていた。
 でも、天馬と出会って、二人でボールを追いかけているうちに、
 天馬がいるなら――今なら、何でもできる気がしてきたんだ」
「キャプテン」

言われている意味を深く理解していない天馬は、とりあえず嬉しそうに笑う。
自分をきっかけにして神童が立ち上がってくれたというところだけは解るからだ。
そこに含まれた邪で、ある意味酷く純粋な慕情だけが綺麗に見えていない。

「え……あ、あの、神童?」

場について行けなくなった一乃たちが首を傾げる。
その他の部員はだいたいが「ああまたいつもの病気か」と目を濁らせていたので、
一乃や青山がしているような困惑は意識のどこにもない。

「何で神童が一年生を口説いてるんだ」
「うん、そのうち慣れる。嫌でも慣れる。原因は推して図ってくれ」

言外に「説明すらしたくない」と語る霧野の表情はぴくぴくと引きつっていた。
見れば全員似たような引きつり顔や死んだ魚の目をしているので、一乃はさらに困惑する。
そして騒ぎはそれで終わる訳でもない。

「顔が近い!!」

剣城が神童を引き剥がし、まるで姫を守る騎士かのように天馬を自らの背後に押し込む。
そして片手をバリケードのように掲げて突っ張って、神童たちの視線が絡むことすら遮った。

「剣城なに、いきなりどうしたの」
「うるさいお前は黙ってろ」
「剣城、俺は天馬と話していたんだ。退いてくれ」
「誰が退くか」

剣城と神童は視線だけで火花を散らす。
火中の天馬が完全に流れに取り残したまま。

「……何で剣城は神童たちを引き裂いてるんだ?」
「あーうん、それもおいおい解る。解ると思うから、戻ってきたことを後悔しないでくれよ」
「は?」

今この場において狂った相関関係を理解できていないのは、
初めて惨劇を直視した一乃と青山、それに火種たる天馬ぐらいだった。



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