※ロックマンエグゼパロ
※キャプテンが炎山様ポジション以外は世界観しかパロってないです



「プラグイン! 奏者マエストロ、トランスミッション!」

神童の手に握られたPETから放たれた光が、プラグイン用の端末に伸びる。

「頼んだぞっ……早くしないと、天馬が危ないんだ!!」

タッチペンの先で走るべきルートを手早く描きながらも、
意識の端ではフォルダに並ぶチップとコードを併せて確認する。
目前に迫るウィルスは三体。時間が無い今、これらを相手にするのは愚策だ。
神童はそう切り捨て、指先をあるチップへと伸ばす。

「バトルチップ『エスケープ』、スロットイン」

焦ったような手つきでPETにバトルチップを挿入する。
瞬間、奏者マエストロの表示がぶれ、一気にウィルスたちとの距離を引き離した。

(相手にしている暇はない。今はまず、天馬を助けるんだ)

続いて神童がスロットインさせたのは、移動範囲を広げるバトルチップ「エリアスチール」。
エリアが広がったのと同時、奏者マエストロは一気に跳躍した。

「急げ! 時間がない!!」

再度タッチペンを振り上げ、神童はナビが走るべき道筋をオペレートする。
幾筋ものルートを吟味している余裕はない。見える道を経験則だけで駆け抜ける。
神童の作戦はある程度成功していたが、それだけで先に進めるほど甘くはなかった。
次に繋がる唯一のリンクアドレスの経路上に、巨大なウィルスの塊が見えたのだ。

「ここに来て、か……」

ぐ、と唇を噛む。
主要なバトルチップこそ温存してはいるが、今ここで体力を使う訳にはいかない。
何せこの後には、まず間違いなく天馬を捕らえた者のナビが控えているのだ。
その前に消耗するのは望ましくない。しかし、選べるだけの手段がない。
最早神童と奏者マエストロには、身動きのとりようがなかった。

(迂回路はない。なら……道は一つか)

はぁ、と溜め息をつき、再びチップフォルダに目をやる。その刹那だった。

「バトルチップ『ソード』『ワイドソード』『ロングソード』スロットイン。
 プログラムアドバンス『ドリームソード』発動!!」

奏者マエストロの背後から現れた謎のネットナビが放つ剣戟が、ウィルスを一刀両断する。
振り返ればそこには、PETを片手に不機嫌そうな顔をした少年が立っていた。
――元WWW団員、剣城・京介。かつては敵として立ちはだかった少年である。

「剣城」
「……お前、それでもオフィシャルかよ」

剣城のネットナビ「剣聖ランスロット」が、返す刀で再び剣を振り下ろす。
それで終わりだった。完全にデリートされたウィルスが、光の粒子に変わっていく。
剣城のウィルスバスティングの実力は圧倒的だった。神童と互角、いやそれ以上だ。

「すまない」
「言ってる隙があるのか」

剣城の琥珀色をした瞳に神童は映らない。
彼に見えているのはあくまでもその先だけだった。
ロックの掛けられた鉄の扉の向こうに閉じ込められた松風天馬以外、
その目には何一つだって見えてはいない。

「勘違いするなよ。俺はお前の仲間になった訳じゃない。目的が重なっただけだ」
「解っているさ……俺たちがすべきことはただ一つ」

トルマリンのように暗く静かに輝く神童の目に、光が宿る。

「天馬を救う、それだけだ」

猫のようにきゅっと細まった剣城の瞳孔には、怒りと殺意が滲み出ていた。
高ぶる感情に任せ、二人の指先が軌跡を描く。





「く……っ」

天馬は喉に手をやりながら、身を小さく屈める。
だんだん酸素が薄くなってきた。まずは頭痛が始まり、やがて何をするのも辛くなる。

(キャプテン、剣城、みんな)

してはいけないと解っているのに、天馬は耐えられずに大きく深呼吸してしまう。
苦しい、辛い、頭が痛い。
震える天馬の体が耐えきれずに膝をついた、その時だった。
かつりと金属音。天馬の視界に、ポケットからこぼれ落ちたPETが映る。

(……PET)

天馬は手を伸ばし、握り締める。
探していた何かを掴むように、両手で握り締める。

(キャプテンみたいに、剣城みたいに、俺も)

天馬とそのネットナビとの繋がりとオペレート技術は、あくまで一般教養の範囲だった。
オフィシャルネットバトラーとして戦う神童や、元WWW団員だった剣城とは違い、
本気の、いつデリートされるかもわからないウィルスバスティングはしたことがない。
だが、それを理由に黙ってなどいられなかった。

「プラグ……イン」

震える手から放たれる光が、扉に向けて伸びる。
全てを変えるための力は、今確かに天馬の指先に触れていた。

「魔神ペガサス」

強く強く言い聞かせるように、その名を呼ぶ。

「――トランスミッション!!」

光が、届く。



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