「京介……」

優一は両足に爪を立てながら、悔しそうに苦しそうに掠れた声を出す。
何かを言おうとして、けれど言葉にならず、剣城はぎゅっと両手を握り締めた。

「どうして黙ってたんだ。そんなこと、本当に俺が喜ぶと思ってたのか」
「……」
「どうして、どうして――」

優一の涙がぱたぱたとパジャマに落ちた。

「どうして俺の足の為なんかに体を売ったりしたんだ!!」
「売ってないぞ!?」

ここが病室であることも忘れて剣城はひっくり返った叫びをあげる。
急に立ち上がったため、剣城が先程まで座っていた椅子が思い切り吹っ飛ばされていた。

「違うのか」
「違うに決まってるだろ!」
「なんだ、俺はてっきりお前が金のために体を売って試合にも出れなくて、
 更に汚れた自分の体が負い目で片思い中の天馬くんにも告白できず、
 それでも『兄さんのためなら……』と今日もまたあの黒服の男について行くのかと」
「あの一瞬でどこまで妄想してるんだあああああ!!!」

実の兄には突っ込めないため剣城が振り下ろした拳はベッドに沈む。
もし同じ発言を神童や天馬がした場合は下段蹴りを起点とした空中コンボが決まっただろう。
それほどの発言をしてもなお優一が無傷でいられる程度に剣城はブラコンをこじらせている。

「でも、違うなら尚更早く行った方が良いんじゃないか? このままだと――」
「解ってる。帝国学園は必殺技も化身も強力なチームだからな」
「天馬くんとこのキャプテンっぽい子が見つめ合う時間が増えちゃうし」

よろけた剣城の頭はごんと鈍い音を立てて壁に直撃した。
大丈夫か、と優一が心配そうに声をかけてくるが、全く嬉しくない。

「さっきから多分キャプテンだと思う子が天馬くんにばかり指示出してるんだ。
 京介が俺の足のためなんかにあの黒服に跨っている間に、
 天馬くんがキャプテンっぽい子に寝取られてたりしないかと思うと兄さんは不安で不安で」
「だから体は売ってないって言ってるだろ!!?」

どうも兄の中では確定事項らしい。否定しても設定が更新されることはなかった。
垂れ流しの妄想と頭を打った痛みに目眩を感じながら、剣城は思う。
「この人の足が治っても、部屋からは出さない方がいいだろう」と――。



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