「勘違いするなよ」

剣城がそう言うので、神童は視線を後方へ向ける。

「仲間になった訳じゃない」
「ああ」

神童は笑顔だった。

「ただのツンデレなんだよな、解ってる」

笑顔でそう言ったので、天馬と信助、神童以外の全員がその場に突っ伏した。
万能坂の面々を含めて全員、景気よくその場で足ズッコケを披露したため、
会場に『ああっとどうしたことだ全員その場に崩れ落ちたー!』という不名誉な実況が響き渡る。

「うるせえ実況すんなあああああ!! くそ、タイムだタイム!!」
「なっ」

剣城はタイムのポーズをとり、強制的に流れを一度せき止める。

「これから攻めていくって時にどうして」
「お前のせいだよ誰がツンデレで何がどうしてそうなった!!」
「……すまない剣城、お前の気持ちに気付いてやれなくて」

神童は申し訳なさそうに眉をしかめると、先ほど「離れるな」と命じた天馬の手をとる。

「剣城には悪いが、俺にはすでに心に決めた人が」

言い終わる前に神童の顔面にシュートが入った。
タイムになった隙に信助がボールを剣城に差し戻していたのだ。

「キャプテン! キャプテン大丈夫ですか!? こら剣城、いきなり何するんだよ!!」
「お前は少し人の話を聞け! 理解する努力もしろ!!」

サッカー以外の話は右から左の天馬の耳には「心に決めた人」発言が聞こえていないので、
神童がいかに病的な発言を盛らしたかが全く理解できていない。
ついでに、神童の心に決められてしまったことにも全く気付いていない。

(こいつバカだ、本当にバカだ、百歩譲って俺がツンデレだったとしても、それなら)

そこまで考えた後に恥ずかしくなったのか、剣城は「うああ」と奇声をあげて小さくなった。
万能坂中の面々は(ホモ扱いが堪えたんだな)と思っている。
雷門中の面々は(ホモの矢印の行き先なんてどこでも変わんねえよ)と思っている。
剣城が誰を見ていて誰を思っているかなど、雷門イレブンからすれば一目瞭然なのだ。
サッカー以外興味がない天馬と信助、空気を操れるが読めはしない神童には理解できていないが。

「おい、お前らは何も思わないのかよ! このままだとお前らの仲間が犯罪者になるんだぞ!」

別にホモは犯罪でもなんでもないのだが、神童の挙動が挙動なので誰も突っ込まない。
寧ろ瀬戸の台詞に対して「立ち上がってもいいかもしれない」と思わせる程度には、
倒れた神童及び奇声をあげる剣城を見つめる目が濁っていた。



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