「たとえ五人だけでも、俺たちは戦います」

神童の語気に迷いはなかった。決意を同じとする天馬たちの眼差しもそうだ。
一心に神童を見据え、ただただ勝利のみを目指す光を宿した瞳。

「勝手にしろ」

車田がそう言い放ったところでそれは変わらない。目は決して逸らされない。
背を向ける剣城も、心はきっと変わらないのだろう。

「……他の誰に見捨てられたって構わない」

車田の背後で、神童が呟く。真っ直ぐに光を捉える言葉に、耳を塞ぎたくなった。

「俺は……お前とたった二人で戦うことになったって、絶対に後悔しない」

――別の意味で耳を塞ぎたくなったがひとまず振り返ることにした。
振り返った先では、いつの間にやら神童が天馬の左足に氷嚢を押し当てている。
光のないダークブラウンの目が完全に陶酔しきる前に、車田が全力で神童をひっぱたいた。

「二人きりになったとしても、俺は」
「お前の本音はそっちかああああ!!」
「いたっ」
「キャプテン!」

心配する必要はないだろう、と速水と瀬戸はうんざりした顔で思った。
そして「あれ通報したらどうよ」浜野は口に出してしまっている。
浜野の気紛れで通報されずにいた神童は、何が悪いのかよく解っていない顔つきだった。

「え……今俺何か言いましたっけ」
「絶対諦めないって言ってくれました!」
「そうだったな、俺は絶対に負けたりしない。天馬がそばにいてくれる限り――いたっ」

今度は三国がしばき倒した。
三国は基本的に神童寄りだが、天馬を後輩として普通に可愛がってもいるので、
重症患者からはできる限り遠ざけてあげたい親心にも近い何かを発動させている。
神童の発言がたまに怖いのも天馬の危機感がないのも、解っていないのは当人たちぐらいだ。

「……あと他に何か言ってましたっけ」
「口説かれたよ! お前口説かれてたんだよ!!」
「えっ」

やはり解っていないので、天馬の大きな目がまるく見開かれる。
と同時に、殺意のこもった視線が突き刺さった。剣城からだった。

(そいつに余計なこと吹き込むな気付かせんな殺すぞ)

と、目線だけで悟れる程度には凝縮された殺意が、容赦なく降り注いでくる。
車田が本気で眩暈を覚えてもなお、天馬は笑顔だった。

「よくわかんないけど、頑張ろうね信助!」
「うん!」
「お前らは黙れ! サッカー部も辞めろ! 掘られるぞ!!」

混乱した倉間の叫びは冷たいようでいてその実純粋に一年生を心配している。



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