「南沢先輩、来なかったんだ」
そう自分の口で呟いてしまって、天馬の心には影が落ちた。
信じたくないと願うからこそ、言葉にすることで実感を伴う。
会場へと向かうキャラバンにも南沢の姿はなく、そして会場に着いてもそれは同じだった。
天馬はぎゅっとユニフォームの裾を握り締めて、フィールドを越え観客席までもを見据えた。
(本当に来てないのかな、実は観客席から見てたりとか)
そう願う反面で、決してこの場には居ないだろうな、とも考えている。
だって南沢からサッカーを奪ったのは紛れもなく松風天馬そのひとだ。
恨まれることはあれど心残りになれるはずはない。
(……うん。今ここに、いなくてもいい)
だからこそ祈る。
あのひとがもう一度フィールドに降りて、共に駆け抜けてくれる日を願う。
(いつかまた、一緒に走ってくれますよね。貴方のシュートを、見れますよね)
だからこそ誓う。
あのひとが戻ってくる場所を、必ず作ってみせようと思う。
サッカーを一緒にできる日がいつか訪れると、信じる。
今じゃなくていい。いつかあのひとに、届けばいいと思う。
「俺はフィフスセクターと戦います」
その為にも、今ここで立ち止まる訳にはいかないのだ。
フィールドに、一陣の風が吹く。