「剣城! カードゲームで勝負だ!」
「ふん……いいだろう」

ああ、またやってるなーあいつら。
そんな気分で俺は着替えを終えて、ロッカーを後にする。
松風と剣城がたまに部室に残って二人でカードゲームに興じているのは知っていた。
松風は物好きなことにまずサッカー抜きで剣城と仲良くしたがっていて、
剣城も剣城でサッカーが絡まないのなら相手をしてやらないこともないというスタンスなのか、
あいつらにしては珍しく会話も弾んでいるようだった。
一年同士の交流関係に口を出すつもりはないが、仲がいいに越したことはないだろう。
要するに我関せずって奴だ。他の部員も同じ気持ちらしく、相手をせずに次々立ち去っていく。
俺も是非小走りで帰宅したかったが――そうは問屋が卸さなかった。

「…………」

半泣きの幼なじみがロッカーの隅で縮こまっていたからだ。
無視して帰っても良いんだが、次々帰っていく部員たちの目が「アレを何とかしろ」と語る。
一年同士の交友は無視をできても、主将の精神状態はどうにかするしかない。
理由が想像できるのが嫌だったけど、俺は致し方なく神童に声をかけた。

「何してんだよ神童」
「きっ……霧野、天馬が、天馬が剣城と密室で見つめ合って、天馬が」
「詳しく聞きたくないから要点だけまとめてくれ」

ああほらやっぱりこんな理由だった。
いくら幼なじみでも、いや幼なじみだからこそ同性相手の恋愛事情なんて知りたくもないから、
俺は半泣きで繰り出す松風トークを途中で遮ってやった。

「要点……だから、俺は」
「ああ」
「剣城が羨ましい。天馬と、サッカー以外の話をして、触れ合えるから」

ああ泣くな泣くな。お前が松風を好きなのはよく解ったから。解りたくなかったけど。
マネージャーの誰か一人に対してこの態度なら応援してやらないこともないんだが、
一年男子に対してってのが洒落にならないから素直に応援できない。
幼なじみの幸せは願ってやりたいよ。願いたいけどさ。

「……なんで剣城がここに居るんだろう」

部員の誰もが一度は思ったことを、他の部員とは全く違う動機で神童が口にする。
目に光がないせいでやたら言葉が重い。

「し、神童も覚えればいいんじゃないのか? カードゲーム」
「え」

話題の切り替えはうまくいったらしい。神童はキョトンとした表情だ。

「混ざる勇気がないなら、剣城がいない時に一体一にもちこめばいいだろ」
「そ……そうか、そうだな!」

言うなり神童は鞄を片手に立ち上がって、意気揚々とロッカーを飛び出し――え?

「し、神童!?」
「カード買ってくる! 霧野、また明日!!」

遠くなる幼なじみを尻目に、俺は立ち尽くしていた。
あいつ、松風絡みの時だけ行動力おかしいだろ。そんな事を考えていた。



翌日。
着替え終わってロッカーの外に出て、俺は一歩後ずさった。人だかりができていたからだ。

「な、何があったんですか?」
「ああ、霧野か……いや、な」

手近に居た三国さんに話しかけてみる。三国さんは恐る恐るといった風に部室を指差した。
何事かと思って顔を覗かせて、俺は硬直した。

「俺のターン、ドロー! サンライトユニコーンを攻撃表示で召喚!」
「場にモンスターが三体……まさか!」
「はいっ! サニー・ピクシーに、サンライト・ユニコーンとピクシーナイトをチューニング!
 聖なる守護の光、今交わりて永久の命となる。シンクロ召喚!
 降誕せよ、『エンシェント・フェアリー・ドラゴン』!!」

二人は非常に仲睦まじくカードゲームに興じている。興じているけど。

「アレ、違いますよね」
「違うよな。神童が買ってきたカードゲーム、やっぱり絶対違うよな」
「……でもまあ、神童も松風も楽しそうなんで、いいんじゃないですかね」

もう俺は突っ込まないことにした。
ついでに、視界の端で壁を蹴っている剣城も見なかったことにした。



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