「まるで、そよ風みたいな奴ですね……」

そう語る神童の目は、桜色のコンタクトを入れたかの様に淡く色付いている。
試合の結果もそうだが、陶酔しきった声にまた倉間の視界は真っ暗になった。

(こいつ駄目だ。本格的に駄目だ)

何が駄目かってホモなところだ。
本人は否定するだろうが、天馬を追う視線は完全に恋する乙女のそれだ。
三国が天馬を見守る目はあくまで先輩後輩の域を出ないが、神童のものは違う。
生温かくて桃色。それ以上は自らの心の安寧のためにも分析したくない。

「ああ……俺たち、もう終わりです」
「いや、俺たちっちゅーか……さあ」

浜野が言葉を濁している時点で異常事態だ。
ホモの色恋沙汰に巻き込まれて内申に傷が付いて将来に響く。
最悪の未来予想図が広がって行くのを、倉間は止められそうになかった。

「キャプテン凄いです! 化身! 化身が、キャプテンのっ」
「はは……落ち付け、俺ならここに居るぞ」

天馬の頭を撫でながら、神童は満足そうに微笑んでいる。
何もかも吹っ切れた笑顔は見ていて非常にすがすがしいが、よくよく見ると怖い。
蕩けるような表情で、神童は天馬に触れる。うっとりと陶酔した視線を送る。
それがベンチに控えるマネージャー陣の誰か一人にするのなら別にかまわない。
問題は、対象が(少なくともその気はなさそうに見える)後輩であることだ。

「……殺す」

そのベンチに座っているもう一人の後輩も後輩で、殺意をフィールド全体に送っている。
主に神童に向けられているのは指示を破ったからだと思いたい。
そうでないと胃が荒れる。

「本気なんだな、神童くん」

相手方のキャプテンが、嫌味なぐらいに爽やかな笑顔を浮かべて言う。
ええ、本気だから困ってるんです。
一年男子相手に本気で恋し始めたせいで俺たち全員困ってるんです。
そうフィールドで叫ぶだけの勇気はなかった。


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